今回は日本での市場をつくるためのプロモーション企画など、深く当社と関わっているアルノー・ポラン氏にインタビュー。
ワインをセレクトする際の哲学、また当社で取り扱っている生産者について伺ってきました。

アルノー・ポラン氏について

数多くのフランスワインを日本に紹介し続けてきたアルノー・ポラン氏(以下、アルノー氏)。

日本市場には、なんと20年以上携わっているようです。

「私と日本の関係は『ポメリージャパン』から始まっています。その後、『CVBG』というボルドーのネゴシアン、シャンパーニュのメゾンなどを通じて日本にワインを紹介してきました。現在もフランスから日本市場のためにワインのセレクション、エクスポート戦略などを手掛けています。」

古くから日本市場を知るアルノー氏。

じつはアートクリエイティブビジネスサポート(以下、アートビズ)の社長である早水氏とは、ポメリージャパン時代からの付き合いだったそうです。

「彼に声をかけられ、現在アートビズの一部のワインのセレクションを行なっています。ワインは、シャンパーニュはシャスネ・ダルス、コート・デュ・ローヌはニュー・ローヌ・ミレジメ、ロワールのソーミュールのドメーヌ・レヴロン・エ・ヴァンサノの三種類。そして、コニャックはテスロンを紹介しました。」とアルノー氏。

日本での市場をつくるためのプロモーション企画など、深くアートビズに携わっているアルノー氏。

日本住んでいた期間も長く、現在も年に3、4回は日本を訪れるなど日本市場の“今”を鋭くチェックしているようです。

アルノー氏は、アートビズが取り扱うワインのラインナップの骨格を担う縁の下の力持ちといったところでしょうか。

セレクションの哲学

アルノー氏のワインセレクションは秀逸です。

どのような哲学を持ってセレクションをしているのでしょうか。

「日本市場の特徴に合うもの。これを大切にしています。中でも私が重要視しているのは、“コストパフォーマンス”ですね。」とアルノー氏。

さらに古い歴史があり、生産体制がしっかりと整っており、フランスはもちろん国際的にも評価が高いことも重要にしているのだそうです。

「小規模生産者も素晴らしいワインを造りますが、生産量が少な過ぎてはビジネスになりません。そのため、安定した生産量を持っている生産者を紹介するようにしています。歴史、品質、供給量。全部まとめて、“安定”していることが重要なのです。」

中にはマニアックであればあるほど良い…という意味でお宝級の生産量しか造っていない生産者を紹介する方もいますが、アルノーさんの考え方は違います。

歴史と品質の確か、そして“飲みたい”と思った時に安定して手に入る規模感。

日本市場に長く携わっているからこそ、“自分本位”ではなく“正しいビジネス”としてワインをセレクションしていることがこのお話から強く伝わってきました。

シャスネ・ダルス

アルノー氏がアートビズでセレクションしている生産者は全4社。

まず、シャンパーニュの「シャスネ・ダルス」についてお聞きしました。

「シャスネ・ダルスは、CM( コーポラティブ マニピュラン)。シャンパーニュ生産者の協同組合で造られているシャンパーニュ生産者です。」

日本ではイメージが弱い部分があるCMですが、“シャスネ・ダルスは通常のCMではない”とアルノー氏は語ります。

「シャスネ・ダルスは、約130栽培農家が集まっているCMで創業当時から70%以上が続いている歴史ある生産者です。一般的なCMの場合、どこで造られたブドウを使用しているのかわからないわけですが、同社の場合はその出自が全てわかります。ある意味で、RM(レコルタンマニピュラン)の集合体…『メゾン・ド・レコルタン(RMの家)』のようなところがあるのです。」とアルノー氏。

しかしRMのような小規模な生産者ではないため、毎年安定的に生産量と品質を保つことができるのもシャスネ・ダルスの魅力と言います。

「通常のRMは、所有する自社畑が2、3ha。ヴィンテージによって、毎年の品質に差が出てしまいます。しかし、シャスネ・ダルスは自社畑が350haあり、さらにブドウの出自が全てわかっている。そして醸造責任者はウイスキーのブレンダーのようにシャスネ・ダルスの品質のゴールを理解しているため、安定した品質と供給量が確保できるのです。」

生産者同士で資金を集めてシャンパーニュ最大規模の醸造設備を設立するなど、シャスネ・ダルスは私たちが想像するCMの域を遥に超えた存在。

「10年弱、私はポメリージャパンでシャンパーニュに携わってきました。そんな私にとってシャスネ・ダルスはベストなシャンパーニュと自信を持って言えます。」とアルノー氏。

とても真面目な生産者たちが多く、日本への輸出に弱かったというシャスネ・ダルス。 “アートビズに託してます”と、アルノー氏も同社に期待をよせていました。

ニュー・ローヌ・ミレジメ

「ニュー・ローヌ・ミレジメ」は、2016年に設立された新しい会社。

同社が手掛けるワインの多くはワイン業界の重鎮たちから賞讃を浴びており、すでに注目の的となっているようです。

「ニュー・ローヌ・ミレジメは親会社で、二つの事業を展開しています。まずは、ネゴシアンとしての北ローヌから南ローヌまでを包括するジェネリックワイン。そしてドメーヌです。」とアルノー氏。

ジェネリックワインの方は、30を越えるアペラシオンを3ユーロから50ユーロまで幅広く揃えているとのことです。

「同社の社長であるジャン=マルク・ポティエは、もともとシャンパーニュで『ニコラ・フィアット』や『ジャカール』の創業に携わった人物。同地方で大変有名な人ですね。ローヌ随一のエノロジストであるロマン・デュヴェルネイと彼は古い友人であり、彼のシグニチャーブランドのワインを買い戻すカタチで会社が設立されました。」

ちなみに、ロマン・デュヴェルネイの市場は50年前からあり、ワイン愛好家たちから強い支持を得ていたということ。また 一時期、ギガル社のコンサルタントだった時期もあるという凄腕のエノログです。

「ジェネリックワイン、ドメーヌどちらも高い品質かつ供給量も安定しています。きれいに造られているワインでわかりやすい。私のミッションは、ニュー・ローヌ・ミレジメのワインを日本に広めることですね。」とアルノー氏。

アートビズでは、「ドメーヌ・ド・ラ・グラン・リブ」「クロ・デ・ミュール」の二つのドメーヌを取扱っています。

双方、オーガニック栽培を行なう生産者だそうです。

「ニュー・ローヌ・ミレジメの中にはオーガニックでないものもあります。日本の市場を見ながらアートビズの方と話し合いをし、今回はこのドメーヌのワインを選んだというカタチです。ただ、10年後、20年後のフランスのブドウ栽培は全て有機栽培へ移行していくのではないでしょうか。」

市場を鑑み、さらに将来のことも考えたチョイス。

アルノー氏の経験と人脈によって、私たちも素晴らしいワインに出会うことができているとあらためて思わされる話でした。

ドメーヌ・レヴロン・エ・ヴァンサノ

「ドメーヌ・レヴロン・エ・ヴァンサノ」は、マティアス・レヴロンとレジス・ヴァンサノによって立ち上げられたロワール地方ソーミュールに位置するドメーヌです。

ソーミュールやソーミュール・シャンピニーといった、日本ではまだ馴染みの薄い生産者をなぜ紹介したのでしょうか。

「偶然なのですが、私が昔パリのとあるアパートに住んでいた時のお隣さんがレジス・ヴァンサノだったんです。彼は不動産の仕事をしながらもシャトーをいくつか所有しており、私はワイン輸出の仕事をしていた。そんな縁があり、私たちの仕事がスタートしたんです。」

醸造責任者であるマティアス・レヴロン氏も、フランスの数多くのドメーヌを手掛けた人物であり腕は超一流。

確かな品質にアルノー氏も惚れ込んだそう。

「50haの自社畑をもっており、ドメーヌには美しい最新の醸造設備が備えられています。ワインのノウハウを全て持っているプロであり、輸入のお手伝いをしたいと決めたんです。」とアルノー氏。

また、シュナン・ブランやカベルネ・フランなど、ロワールを代表するブドウ品種が今後世界で人気を博していくと考えているとのこと。

ソーミュールやソーミュール・シャンピニーといえば、たしかにシュナン・ブランやカベルネ・フランです。

「ロワールと言えば、サンセール。とても有名な産地ですよね。ソーヴィニヨン・ブランがブームとなっており、アメリカでもよく売れています。しかし、そんなアメリカで次に来ると言われているのがシュナン・ブランなんです。

アルノー氏は続けます。「シュナン・ブランは保存が利く力を持ったブドウ品種です。ロワールらしい品種ですし、シュナン・ブランもカベルネ・フランもフランスの他の産地ではほとんど造られていません。ロワール以外にあり得ない品種なのです。」

16世紀頃から18世紀頃まで、ロワールのワインはボルドーより美味しいと高い評判を得ていたそう。

「当時の王侯貴族たちはロワールに城を所有しており、そこで飲まれていたワインは…。もちろん、ロワールのワインです。」とアルノー氏。

フランスといえばボルドーやブルゴーニュですが、ローヌと共に古い歴史を持っているのはロワール。

ほかの会社がアクセスする有名産地ではなく、別会社がタッチしないところで市場をつくっていきたい。 こんなところにもアルノー氏のセレクションの哲学がうかがえますね。

テスロン

アルノー氏が紹介するのはワインだけではありません。

なんと、コニャックの名門「テスロン」もアートビズではセレクションされています。

「テスロンは、古い歴史をもったコニャックメゾン。現在、あのシャトー・ラフォン・ロシェと同五級のシャトー・ポンテ・カネを所有しています。」

古酒専門メーカーとしても有名なテスロンですが、貴重な古いコニャックをレミーマルタンやヘネシー以上に持っているというのですから驚きです。

17世紀に寝かせるために造られたものを18、19世紀にボトリングした原酒がテスロンには残っています。この宝石のようなコレクションが残っているのは、もはやテスロンだけでしょうね。」とアルノー氏。

また、驚くべきは設備は200年前のままでエレクトリックな要素が一切無いというところ。

「コニャック造りの学校というものはありません。醸造のノウハウなど、お酒の勉強は大学でできるでしょうがコニャック造りについてはできないのです。製法がクローズドなわけではありませんが、ワインを造るというレベルではないんですね。教科書や勉強ができる機関からではなく、先輩や親から受け継がれていくものなのです。」

そんなテスロン。

高いクオリティに誰もが驚くといいます。

「ウイスキーは好きだけれど、コニャックは苦手。こういった方は数多くいます。しかし、テスロンコニャックを試飲させると皆驚きます。“コニャックのイメージではない”と。繊細かつアルコール度数の強さを感じさせない、高いクオリティのコニャックがテスロンです。」

また、「ただし、価格は安くはありません。いや、安くする必要がないのです。皆に紹介できる量ではありませんし、本当に求めている方に飲んでいただきたい。テスロンコニャックこそ、本物のラグジュアリーグッズだと私は思っています。」

開栓しても酸化せず、自分の息子や孫の代にまで残しておくことができる。

「テスロンコニャックが一本あれば、ストーリーが紡げます。これは、ワインにはできないことですね。」とアルノー氏。

テスロンではベースとなるワインもとてもていねいに造られているそう。

本物のラグジュアリーグッズ「テスロン」。 コニャックファンであれば、一度も飲まずしてこの世を去るわけにはいかない名品です。

ワインもガストロノミーの時代へ

素晴らしいワインと共に楽しみたいのが素晴らしいお料理。

アルノー氏は、ワインと料理のペアリングについてどう考えているのか聞いてみました。

“ワインと食事のマリアージュ”というと、白ワインには魚料理、赤ワインは肉の煮込み…と言われ続けています。しかし、今はもう多くの人たちがそのレベルを超えています。もっと、繊細な考え方になってきているんです。」とアルノー氏。

インタビュー同日は、ニュー・ローヌ・ミレジメの「ドメーヌ・ド・ラ・グラン・リブ」と「クロ・デ・ミュール」を和食と合わせる予定でしたが、それについてどう思うかについても質問してみました。

マリアージュは、本当はそれぞれの人間が考え方であり決まりはないんです。私は酔いものと良いものを合わせれば、必ずマリアージュすると考えています。重くて力のある赤ワインであればお刺身とは難しいかもしれない。でも、繊細な赤ワインであればマグロやカツオとのペアリングも考えられます。白ワインと肉というペアリングもです。和食とローヌはとても楽しみですね。崩れないよう、ペアリングは配慮すべきですが、“絶対に合わない”ということはないと思っています。」

また、パリではシェフやソムリエなどによる新たなペアリングへのアプローチがブームになっているという話も。

「パリはシェフや業界の新しい考え方が進んでいます。今までガストロノミーという考え方のラグジュアリーな世界はシャンパーニュでしたが、一般的なワインもそこに入り込んできています。我々の世界は、ラグジュアリーな世界に突入しているのです。」とアルノー氏。

素晴らしい品質のワインだけを追いかけるのではなく、料理とのペアリングも楽しむ。

ますますワインが楽しくなる…そんな飲み方をしていきたいものです。

市場をつくる

今回紹介いただいた生産者のほかに、何か新しい生産者を加える予定はあるのでしょうか。

「まずは、先ほど紹介した4つの生産者。これらをしっかりとプロモーションをしていき、将来的に市場をつくっていくことが第一優先です。スポットで新しい生産者を紹介するかもしれませんが、今はしっかりと安定した市場をつくることを中心にやっていきたいですね。」とアルノー氏。

クオリティはもちろん、コストパフォーマンスを意識した品揃え。

一度購入したら、また飲みたくなるワイン。

こういったワイン市場をつくるために生産者とアートビズと強力しながら、いろいろなプロモーションを仕掛けていきたいとアルノー氏は語ります。

「競争は厳しいでしょう。そのため、商品の見せ方やラベル、それぞれの生産者をサポートしながら年に一回ワイン会を行なうなど、プロモーションに力を入れていきたいですね。そのためには、私たちの信頼関係をしっかりと築き上げることが重要。これからも、生産者、アートビズと力を合わせてよいワインを多くの人に紹介できればと思っています。」

ちなみに、ボルドーやブルゴーニュなど、幅広い業者からアクセス可能な有名なグランヴァンではなく、アートビズが取り扱う生産者は独占契約

ここでしか出会えないワイン。 ぜひ、アルノー氏の哲学を今回ご紹介いただいたワインから感じ取ってみてはいかがでしょうか。